もうなのか
まだなのか
君の温もりが消えてから
ちょうど半年だね
雪が舞って
花が散って
天気予報は外れて
暑い一日だったね
僕らは
元気でいるよ
彼女は
まだ泣いてばかりいるけど
君に似た
小さな黒い瞳もみつけたよ
君と約束した
奇蹟とは違うかもしれないけれど
月は満ちて
日は巡って
今日の星座占いは
君が一番だったよ
なんてね
こうやって
そのままの君を
思っていたいんだ
そのままの君が
何より愛しいんだ
だからいつか
僕らはいつか
月が満ちて
日が巡って
きっと
来世で逢おう
夜の町が 夏に滲む
頼りない風に吹かれて
僕が吐く 煙の青
街灯の橙に紛れて
騒ぐ虫の音
滑るヘッドライト
信号が
青から黄に変わる
いつか君と
一緒に歩いたね
あの角で 駄々をこねて
僕を少し困らせて
小さな公園の
小さな森の
小さな木陰で
いまも僕らは
遠い遠い空を見上げる
足下に寄り添って
君が覗き込む
9番目の雲と
いつか君と見た
その向うの銀河
ああ、もう
信号が
赤から青に変わる
歩き出して 止まって
振り仰ぐ
いつか君と見た景色
目を閉じて 止まって
君が覗き込む
9番目の雲と
その向うの銀河
去年の今頃から
君の
長くて短い闘いが始まった
痩せて筋肉は衰え
背骨が段々と左に歪み
皮膚は皮膚の働きをせずに
ふわふわだった毛は抜け落ち
四肢は痙攣を繰り返した
発作の悲鳴を上げて
体液を大量に漏らして
水さえ飲めないような時でも
何錠もの薬を
がんばって飲み込んでくれた
辛かっただろうに
痛かっただろうに
君は
その小さな躯で精一杯闘った
怖かっただろうに
苦しかっただろうに
君は
いつでも優しくて勇敢だった
目を閉じて
何度でも言うよ
ありがとう
ずっと愛してる
僕たちの愛しい
勇敢な戦士
ありがとう
ずっと愛してる
思い出す歌は
どれもみんなもう遠い
時間は縮んで伸びて
叶わなかった願いが
風に舞う涼しい夜
振り返るその瞳
キャンドルを灯して
心だけで問いかける
また会いたいねってただ
早く会いたいねってただ
窓の外静かな夜
真っ黒なその瞳
間に合わなかった
青い車に君を乗せて
どこまでも走って行く
どこまでも走って行くんだ
風に舞う涼しい夜
振り返るその瞳
窓の外静かな夜
真っ黒なその瞳
いつまでも見ていたくて
いつまでも見ていたくて
夏のような昼間を過ぎ
夕方の風に窓を開ける
吹かれて君が窓辺で眠る
僕は身体を縮めて見守った
いろんなことが
間に合うように、と
まだ昨日のような
もういつかのような
夕焼けの色だけが部屋を
去年のままに染める
照らされて君が僕を見上げる
鼻と鼻をつけて目を閉じて
いろんなことを
間に合わせてくれた
君はなにを願ってた?
たぶん知っている
それを僕らは叶えられた?
いまも君に問う
夕焼けの色はもう褪せて
闇が部屋を静かに充たす
立ち上がる僕を君が見上げる
痩せた躯の全身のちからで
いろんなことを
間に合わせてくれた
君はなにを願ってた?
いまも君に問う
それを僕らは叶えられた?
いまも君に問う
夢の中で君は歩いて 走って
あの公園の鳩を残らず飛ばして
赤い舌で息を切らして 走って
僕の腕に全速力で飛び込んだ
出会っては別れて
生きていく不思議
覚えては忘れる
この世界の不思議
時間の作用で
あるいは 削れて
あるいは 刻まれて
君を最大限抱きしめて 笑って
三人で寄り添った虫の音の夜
同じような写真を何枚も 笑って
この時が少しでも長く続くようにと
出会っては別れて
生きていく不思議
掴んでは零れる
この世界の不思議
分厚い重い雲
ひと雨 来るのか
ひと雨 来たのか
夢の中で君は走って 笑って
あの公園の丸い空を見上げて
僕らは最大限抱き合って 笑って
最後の時間を過ごした
もう
最後の時間を過ごした
あの日あの時間から
もう一年
目を閉じて
心を見回して
一番素敵な場所に
君がいることを確認して
笑いかける
駆けていく背中に
君が生まれた季節のような
光のなかのその背中に
あの14:47から
いま、一年
やっと 君を
眠らせてあげられそう
この一年は
僕たちのための一年
だから 次からの未来が全部
また君に巡り会うための道程
おやすみ
君にも 僕たちにも
いい旅を
おやすみ
君にも 僕たちにも
いい旅を
おやすみ